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配偶者の居住権

越谷 司法書士のオリジナル解説

司法書士・行政書士による相続のオリジナル解説です。
配偶者の居住権について、配偶者の居住権の成立から取得、設定登記、消滅登記、さらに配偶者短期居住権もあわせて解説しています。

2018年7月6日、国会において「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、同月13日に交付されました。相続法制の大改正です。

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総説

  1. 新法は、「第8章 配偶者の居住の権利」の下に、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の二つの制度を新設しました。
     

  2. その理由は、高齢化社会が進展して配偶者の年齢も高齢化していることに伴い、配偶者の生活保障の必要性が高まっていることが一つの原因です。
     

  3. また、配偶者の一方が死亡した場合に、他方の配偶者は、それまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常であります。
     

  4. すなわち配偶者についてはその居住権を保護しつつ、将来の生活のために、一定の財産を確保させる必要性が高まったことより居住権をも保護する必要性があるのです。

配偶者居住権の成立パターン

  1. 配偶者居住権には、第一に配偶者居住権のみが成立するパターン、第二に配偶者短期居住権のみが成立するパターン、第三に配偶者短期居住権から配偶者居住権に移行するパターン、があります。
     
  2. 配偶者居住権のみを取得するパターン
    被相続人が、配偶者居住権を遺贈の目的としたときは、相続開始と同時に配偶者居住権が成立し、配偶者短期居住権は成立しません。
     
  3. 配偶者短期居住権のみを取得するパターン(その1)
    配偶者が加わる遺産分割協議または審判において配偶者居住権が成立しなかった場合であって、かつ、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺贈がないときに成立します。これは、配偶者が、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始のときから6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、配偶者居住権を有します。
     
  4. 配偶者短期居住権のみを取得するパターン(その2)
    上記3の場合以外において、居住建物について配偶者以外の者が相続または遺贈により所有権を取得し、相続開始後に当該取得者が配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅を申し入れたときは、配偶者は、その申し入れから6ヶ月経過するまでの間、当該取得者に対して配偶者短期居住権を有します。
     
  5. 配偶者短期居住権から配偶者居住権に移行するパターン
    配偶者に、配偶者居住権を取得させる旨の遺贈がなかったため、相続開始と同時に配偶者短期居住権が成立し(上記3・4の場合)、その後遺産分割の協議・調停の成立または審判の確定により配偶者居住権が成立したときは、配偶者短期居住権から配偶者居住権に移行します。

配偶者居住権と賃借権の比較

  1. 発生事由
    配偶者居住権の発生事由は、遺産分割または遺贈であり、賃借権のように居住建物の所有者との間の設定契約を必要としません。
     
  2. 有償性
    配偶者居住権は、配偶者の居住権を保護しつつ、将来の生活のために一定の財産を確保させるために創設されたものであることから、無償で居住建物の使用収益をすることができる権利です。この点において賃借人が賃料支払い義務を負うことを要素とする賃借権と異なります。
     
  3. 存続期間
    配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間です。例外的に遺産分割などで別段の定めをしたときは、その定めるところによります。これに対して、賃借権の存続期間は50年を超えることができません。
     
  4. 第三者対抗要件
    建物賃借権の対抗要件が登記または建物の引き渡しとされているのに対して、配偶者居住権の対抗要件は登記に限られています。
     
  5. 登記請求権
    配偶者は、居住建物の所有者に対して配偶者居住権設定登記の登記請求権を有します。一方、賃借人の賃貸人に対する登記請求権については、判例により否定されています。
     
  6. 譲渡性
    配偶者居住権は譲渡することができません。一方賃借人は、賃貸人の承諾を得れば賃借権を譲渡することができるとされています。
     
  7. 第一次的修繕権者
    配偶者は、居住建物の使用および収益に必要な修繕をすることができます。つまり、配偶者は第一次的修繕権者です。これに対して賃貸借における第一次的修繕権者は、あくまでも賃貸人であり、賃借人の修繕権は例外的に認められているにすぎません。
     
  8. 費用負担
    居住建物の現状維持に必要な費用のうち、通常の必要費は配偶者が負担します。たとえば、固定資産税、経年劣化に伴う通常の修繕費などです。また、不慮の風水被害により家屋が損傷した場合の修繕費などの特別の必要費およびリフォーム工事の費用などの有益費は、建物所有者が負担します。これに対して、賃貸借においては、その有償性から必要費および有益費のぜんぶを賃貸人が負担します。
     
  9. 相続性
    配偶者が死亡したときは、存続期間の満了前であっても配偶者居住権は消滅します。すなわち、配偶者居住権には、相続性がない「一身専属権」です。一方、賃借人が死亡したときは、賃借権は相続などにより承継されます。

配偶者居住権の成立要件

  1. 基本的要件
    配偶者居住権が成立するための基本的要件は、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに居住していたことです。配偶者短期居住権のように「無償」で居住していた場合に限定されません。
     
  2. 付加的要件
    配偶者居住権が成立するためには、上記の基本的要件に加えて次のいずれかに該当することを要します。
    ① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたこと
    ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと
    ③ 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所が、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を定めたこと
     
  3. 発生障害事由
    被相続人が相続開始のときに居住建物を配偶者以外の者と共有していたときは、配偶者居住権は成立しません。

遺言による配偶者居住権の取得

  1. 「配偶者居住権を相続させる」旨の遺言により、配偶者居住権を取得させることができるでしょうか。
     
  2. 配偶者居住権の遺贈があったものと解すべき特段の事情がある場合に該当すれば、取得が認められる場合があり得ます。
     
  3. すなわち、「配偶者居住権を相続させる」旨の遺言については、配偶者居住権を遺贈したものと解すべき特段の事情があると考えられます。
     
  4. その理由としては、第一に配偶者居住権制度を創設して高齢配偶者の居住の利益の保護を図った新法の下では遺贈と解すべき特段の事情があると認めるべき必要性があるからです。
     
  5. 第二の理由として、配偶者居住権は、被相続人の所有に属する財産ではなく相続開始以後に発生する権利であるから、そもそも遺産分割方法の指定の対象としては相応しくないと言えるのに対して、遺贈の目的財産は、必ずしも被相続人の所有に属する財産であることを要しないとされています。
     
  6. 以上の理由から、当該遺言は配偶者居住権を遺贈する趣旨であるという解釈が成り立つ可能性があります。

遺贈による配偶者居住権の取得と特別受益

  1. 配偶者が遺贈により配偶者居住権を取得した場合に、特別受益との関係で注意すべき点があります。
     

  2. それは、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対して配偶者居住権を遺贈した場合には、特別受益の持ち戻し免除の意思表示を推定する規定が、準用されていることです。
     

  3. 持ち戻し免除の意思表示の推定も、配偶者居住権と同じく、高齢配偶者の居住の権利を保護するための制度であることに基づく準用です。

審判による配偶者居住権の取得

  1. 家庭裁判所が審判により、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるのは、どのような場合でしょうか。
     
  2. 家庭裁判所の審判による、配偶者居住権の取得の要点は次の通りです。
     
  3. 配偶者居住権の取得の審判をすることができるのは「遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所」です。つまり、この審判は、遺産分割手続きの一環として行われるのであって、配偶者居住権の取得のみを家庭裁判所に請求することはできません。
     
  4. 家庭裁判所が、配偶者居住権の取得の審判をするためには、下記のいずれかに該当しなければなりません。
    ① 共同相続人間に、配偶者が配偶者居住権を取得することについて、合意が成立していることです。

    ② 上記①の合意が成立していない場合には、以下のすべての要件を満たしていることが必要です。
    ア 配偶者が家庭裁判所に対して、配偶者居住権の取得を希望する旨を、申し出ていること。
    イ 居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮しても、なお配偶者の生活を維持するために、特に必要があると認められること。

共有建物と配偶者居住権

  1. 相続開始時に、居住建物が被相続人の単独所有に属していなかった場合、配偶者居住権は成立するのでしょうか。
     
  2. 新法は、共有建物について配偶者居住権の成立を除外する事由を「被相続人が相続開始のときに居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合」に限る、としています。
     
  3. そして、それ以外の場合には、混同の例外として、配偶者居住権の成立を認めることを明らかにしています。具体的には、相続開始前から、配偶者が居住建物について共有持分を有していた場合や、配偶者が相続により居住建物の遺産共有持分を取得した場合です。
     
  4. 配偶者が居住建物の共有持分を有している場合には、新法は配偶者居住権の成立を認めることとしました。
     
  5. それでは、配偶者以外の者が共有持分を有していた場合は、どうでしょうか。
     
  6. 配偶者居住権は、配偶者が居住建物を物理的に占有して、居住のように供することを可能とするためのものであります。よって、共有持分のような観念的なものについて、配偶者居住権を成立させることは相当ではありません。
     
  7. したがって、被相続人と第三者が建物を共有していた事例で、配偶者居住権を成立させるとすれば、第三者についても配偶者居住権の債務者として扱わなければならないこととなります。
     
  8. その際、その第三者が同意した場合には配偶者居住権の成立を認めることも考えられないではありませんが、配偶者居住権は、被相続人が居住建物について有していた権利の一部を独立の権利ととらえて相続によって承継させようとするものであり、第三者の同意によって生じた権利を、同質のものと扱うことはできません。

配偶者居住権が配偶者の相続分に及ぼす影響

  1. 配偶者居住権の成立は、配偶者の相続分にどのような影響を及ぼすか問題になります。
     
  2. 特別受益の持ちだし免除の推定規定が準用されない場合には、配偶者は、居住建物以外の遺産からは、自己の具体的相続分から、配偶者居住権の財産評価額を控除した残額について、財産を取得することになります。
     
  3. 配偶者が、配偶者居住権を取得しても、他の相続人の具体的相続分は変わらないことになります。
     
  4. 例外として、特別受益の持ち出し免除の推定規定が準用される場合があります。
    すなわち、配偶者は、自己の具体的相続分から配偶者居住権の財産評価額を控除することなく、居住建物以外の遺産からも財産を取得することになり、その分だけ他の相続人の具体的相続分は減少することになります。

配偶者居住権の設定登記と登記の連続性

  1. 配偶者居住権が成立した場合に、必要となる登記およびその順序はどうなるでしょうか。
     
  2. 配偶者居住権の成立は、相続が開始したことおよび配偶者以外の者が建物の所有者となったことを前提としています。
     
  3. したがって、配偶者居住権の設定登記の申請が受理されるためには、その登記に先行して、当該建物の登記記録の甲区において、「相続」「遺贈」などを原因とする、配偶者以外への所有権移転登記が行われる必要があります。
     
  4. その登記を経たうえで、配偶者居住権の設定登記が、所有権以外の権利に関する登記として、登記記録の乙区で登記されます。

配偶者居住権の設定登記の申請人

  1. 配偶者居住権は、建物所有権を制限する賃借権類似の権利です。賃借権の設定の登記に準じて、配偶者居住権を取得した配偶者を登記権利者とし、建物の所有権登記名義人を登記義務者とする共同申請によるのが原則です。
     
  2. ただし、次の要件をいずれも満たす場合には、判決による登記に準じて配偶者が単独で申請することができます。
    ① 配偶者が、家庭裁判所の遺産分割の審判により配偶者居住権を取得した場合であること。

    ② 審判中で、建物所有権登記名義人に対して、配偶者居住権設定の登記義務の履行を命ずる旨が明示されていること。

不動産登記法の改正

  1. 配偶者居住権の登記の創設にともない、不動産登記法はどのように改正されたでしょうか。
     
  2. 登記することができる権利に配偶者居住権が加えられ、配偶者居住権の存続期間等が登記事項とされたことが改正点です。
     
  3. 配偶者居住権の登記事項は二つあります。
     
  4. 第一に、存続期間が絶対的登記事項です。
    配偶者居住権の存続期間は「配偶者の終身の間」を原則とし、遺産の分割の協議もしくは遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めのところによります。
    原則が適用される場合、および別段の定めがある場合のどちらであっても、存続期間が登記されるものと解されます。
     
  5. 第二に、第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す旨の定めがあるときは、その定めを登記しなければなりません。(相対的登記事項)
    配偶者は居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築もしくは増築をし、または第三者に居住建物の使用もしくは収益をさせることができない旨の規定を受けて、登記事項とされたものです。

配偶者居住権の設定登記の申請情報(1)

  1. 配偶者居住権の設定登記の申請情報のうち、「登記の目的」「登記原因およびその日付」は、どうなるのでしょうか。
     
  2. 登記の目的は「配偶者居住権設定」となるものと解されます。
     
  3. 登記原因は「年月日設定」と解されます。
     
  4. 原因日付は、配偶者居住権の発生事由が遺産分割である場合は、遺産分割の協議もしくは調停の成立日、または遺産分割の審判の確定日を原因日付とすべきものと解されます。
     
  5. なお、遺贈によって配偶者居住権が発生する場合には、遺贈の効力発生日を原因日付とすべきでしょう。すなわち、原則として相続開始日を原因日付とし、停止条件付遺贈の条件が相続開始日後に成就した場合には、その成就日を原因日付とするべきものと解されます。

配偶者居住権の設定登記の申請情報(2)

  1. 配偶者居住権の設定登記の申請情報のうち、「存続期間」はどのように記載されるでしょう。                                       
  2. 配偶者居住権の設定登記においては、「存続期間」は登記事項とされるが、次のような記載方法が考えられます。
    ① 別段の定めがない場合(原則)は、「存続期間 配偶者居住権者の死亡時まで」と登記されます。

    ② 別段の定めがある場合(例外)は、「存続期間 〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」と登記されます。

配偶者居住権の設定登記の申請情報(3)

  1. 配偶者居住権の設定登記の申請情報のうち、添付情報および登録免許税はどうなるのでしょうか。
     
  2. 添付情報のうち、登記原因証明情報は、次のように考えれます。
    すなわち、配偶者居住権の発生事由は、遺産分割または遺贈に限られているので、それらを証明できる遺産分割協議書、遺産分割の調停調書謄本、遺言書などが登記原因証明情報となります。
     
  3. この登記原因証明情報の適格性について留意しなければならないのは、配偶者が被相続人の財産に属した建物に「相続開始のときに居住していた」ことが、配偶者居住権の成立要件とされていることです。
     
  4. この要件の充足も、登記原因証明情報の内容に含まれる必要がありますが、遺産分割協議書などに配偶者が、相続開始時に当該建物に居住していたことが記載されていれば足ります。住民票の写しなど、その記載を裏付けることまでは要しないことと解されます。
     
  5. なお、配偶者が単独で申請する場合の登記原因証明情報は、建物の所有権登記名義人に対して登記義務の履行を命じた遺産分割の審判書正本(確定証明書付)に限られます。
     
  6. 登記識別情報ですが、遺産分割の審判書正本を添付して配偶者が単独で申請する場合を除き、登記義務者である居住建物の所有権登記名義人が登記名義を取得した際に、通知を受けた登記識別情報を添付します。
     
  7. 印鑑証明書も必要です。遺産分割の審判書正本を添付して、配偶者が単独で申請する場合を除き、登記義務者が登記申請情報または代理権限証明情報に押した印鑑について、市町村長が作成した証明書(作成後3か月以内のもの)を添付します。
     
  8. 登録免許税ですが、賃借権の設定登記に準じて、税率は千分の十であると解されます。なお、課税価格は当該居住建物の固定資産税の課税評価額です。

配偶者居住権が消滅した場合の登記および申請人

  1. 配偶者居住権は、存続期間の満了または配偶者の死亡によって消滅します。
     
  2. この場合の登記は賃借権の抹消登記に準じます。
    すなわち、居住建物の所有権登記名義人を登記権利者とし、配偶者居住権の登記名義人である配偶者を登記義務者とする、共同申請です。
     
  3. 登記の内容は、配偶者居住権の抹消の登記となります。
     
  4. なお、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には、その相続人が、登記義務者の相続人の資格で申請すべきものと解されます。

配偶者居住権の抹消登記の申請情報

  1. 賃借権の抹消の登記に準じたものになると想定されます。すなわち、定期建物賃貸借権が存続期間の満了により消滅した場合や、終身建物賃借権が賃借人の死亡により消滅した場合における抹消の登記に準じるものと想定されます。
     
  2. 登記の目的は、「〇番配偶者居住権抹消」とすべきものと解されます。
     
  3. 登記原因およびその日付は、次のようになると解されます。
    存続期間の満了によって、配偶者居住権が消滅した場合には、「存続期間満了」を登記原因とし、期間満了日の翌日を原因日付とすべきでしょう。
    配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には、「配偶者居住権者死亡」を登記原因とし、死亡日を原因日付とすべきものと解されます。
     
  4. 添付情報は、登記義務者である配偶者が配偶者居住権の設定の登記の際に通知を受けた登記識別情報を添付すべきでしょう。
    なお、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には、義務者側の申請人が配偶者の相続人であることを証する戸籍の全部事項証明書などを添付すべきものと解されます。
     
  5. 登録免許税は、不動産一戸について、金1,000円の定額課税です。

配偶者居住権の譲渡を禁止する理由

  1. 新法第1032条第2項が、配偶者居住権の譲渡を禁止したのはなぜでしょうか。
     
  2. 配偶者居住権は、配偶者自身の居住環境の継続性を保護するためのものであるから、第三者に対する譲渡を認めることは、制度趣旨との関係で必ずしも整合的ではないでしょう。
     
  3. 配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅する債権であり、継続性の点で不安定であることから、実際に売却することができる場面は、必ずしも多くないと思われます。
     
  4. しかし、譲渡以外の方法による投下資本回収の可能性はあります。すなわち、居住建物の所有者の承諾を得たうえで、第三者に居住建物を賃貸すること等によっても投下資本の回収は可能であると考えられます(賃貸であれば短期間の需要もありえます)。

配偶者居住権の譲渡禁止違反の効果

  1. 居住建物の所有者は、配偶者が譲渡禁止規定に違反して第三者に配偶者居住建物を譲渡したことを理由として、配偶者居住権消滅の意思表示をすることができるか問題です。
     
  2. 新法第1032条は、配偶者居住権を有する配偶者の自己使用収益義務として、次のことを規定しています。
    すなわち、①用法遵守義務・善管注意義務、②配偶者居住権の譲渡禁止、③居住建物の所有者に無断で改築・増築すること、および第三者に使用収益をさせることの禁止です。
     
  3. 前記①または、③に違反した場合には、居住建物の所有者は、意思表示によって、配偶者居住権を消滅させることができます。しかし、②の譲渡禁止に違反したことそれ自体は、消滅請求の事由とはされていません。

使用貸借・賃貸借の規定の準用

  1. 配偶者居住権に関する規律のうち、他の条文が準用されている事項は何でしょうか。
     
  2. 使用貸借に関する規定の準用は、次のようなものがあります。
    ①当事者が配偶者居住権の存続期間を定めたときは、配偶者居住権はその存続期間が満了することによって消滅します。

    ②配偶者居住権は、配偶者の死亡によってその効力を失います。

    ③配偶者居住権の本旨に反する使用によって生じた損害の賠償、および配偶者が支出した費用の償還は、居住建物取得者が返還を受けたときから一年以内に請求しないといけません。損害賠償の請求権については、居住建物取得者が返還を受けたときから一年を経過するまでの緩和、時効は完成しません。
     
  3. 賃貸借に課する規定の準用は、次のようなものがあります。
    ①配偶者が適法に居住建物を第三者に使用収益させたときは、当該第三者は、居住建物取得者と配偶者との間の配偶者居巡検に基づく配偶者の限度の範囲として、居住建物取得者に対して配偶者との間の賃貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います。

    ②前記①の規定は、居住建物取得者が配偶者に対して、その権利を行使することを妨げません。

    ③配偶者が適法に居住建物を、第三者に使用収益をさせた場合には、居住建物取得者は、配偶者との合意により、配偶者居住権を消滅させたことをもって、当該第三者に対抗することができません。

    ④ただし、その消滅の当時、、居住建物取得者が配偶者の債務不履行を理由として、意思表示により配偶者居住権を消滅させる権利を有していたときは、この限りではありません。

    ⑤居住建物の全部が、滅失その他の事由によって使用することができなくなった場合には、配偶者居住権はこれによって消滅します。

配偶者居住権の登記に関する事例(1)

  1. 被相続人Xは、単独で所有する甲建物(自宅)について、配偶者Yに配偶者居住権を遺贈したが、甲建物の所有権については何ら遺言をしないまま死亡しました。相続人はYおよび子Zです。
     
  2. Yは、遺贈の効力により、相続の開始と同時に、配偶者居住権を取得し、あわせて共同相続人の一人として居住建物の遺産共有持ち分を取得します。
     
  3. 本事例のような場合には、最終的には、遺産分割の遡及効により配偶者は居住建物の所有権を取得しなかったことによるケースが多いと考えられますが、遺産分割が終了するまでの間に、配偶者が配偶者居住権について登記を備えることができるようにする必要があります。
     
  4. 登記は、「相続」を原因とする、XからYおよびZへの所有権移転登記を経由してから、Yのための配偶者居住権の設定登記をすべきです。
     
  5. 配偶者の申請手続きへの関与の仕方は、どうなるでしょうか。
    この場合、配偶者Yは登記権利者としてでなく、Zと共に登記義務者としても関与すべきものと解されます。

配偶者居住権の登記に関する事例(2)

  1. 被相続人Xは、単独で所有する甲建物(自宅)について、配偶者Yに配偶者居住権を遺贈する旨の遺言を作成した後、子Zに甲建物の所有権の一部を生前贈与し、その旨の登記をしました。その後Xは他の遺言を作成しないまま死亡しました。
     
  2. 被相続人が、相続開始のときに居住建物を配偶者以外の者と共有していたことは、配偶者居住権の発生障害事由となります。
     
  3. 本事例では、XがZに対して、甲建物の所有権の一部を生前贈与したことにより、この発生障害事由に該当することになります。
     
  4. また、当該生前贈与は、遺言と抵触する遺言後の生前処分にあたり、これによってXは、遺言を撤回したものとみなされます。
     
  5. したがって、本事例では、配偶者居住権の発生を妨げる事由が、二重に存在することになります。
     
  6. 結局、甲建物について、Xが相続開始当時、所有していた共有持分は、法定相続によってYおよびZに承継されることになるから、「相続」を原因とするYおよびZへのX持分全部移転登記のみをすべきでしょう。

配偶者短期居住権の創設理由

  1. 配偶者短期居住権は、平成8年の最高裁判所が土台となっています。
    同判例は次の判旨です。すなわち、「相続人の一人が被相続人の承諾を得て、被相続人所有の建物に同居していた場合には、特段の事情がない限り被相続人とその相続人との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」との判旨です。
     
  2. 配偶者短期居住権の創設理由は、まず第一に高齢化社会の進展があります。
    配偶者の一方(被相続人)が死亡した場合でも、他方の配偶者(生存配偶者)は、それまで居住してきた建物に、引き続き居住することを希望するのが通常です。高齢化社会の進展にともなって、配偶者の居住権を保護する必要性が高まっているのです。
     
  3. 配偶者短期居住権の創設理由の第二は、夫婦の親族としての緊密性です。
    夫婦は、相互に同居・協力・扶助義務を負うこと、配偶者は一親等ですらないことなど、法律上もっとも緊密である親族とされています。このことを考慮すれば、配偶者に限って、このような保護を与えることにも相応の理由があると考えられます。

配偶者短期居住権の法的性質

  1. 配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人の財産に属した建物に、相続開始時に無償で居住していたことによって成立するものです。居住建物取得者などとの合意を必要としないから、法定の権利であります。
     
  2. また、配偶者短期居住権は、居住建物取得者という特定人に対する権利(居住建物取得者を債務者とする権利)とされていることから、債権の一種であります。
     
  3. なお、被相続人が、明確に異なる意思を表示していた場合には、配偶者の居住権が短期的にも保護されない事態が生じます。
     
  4. たとえば、被相続人が、配偶者の居住建物を第三者に遺贈した場合には、被相続人の死亡によって建物の所有権を取得した当該第三者からの退去請求を拒むことができないことになります。
     
  5. このような事態を回避するために、被相続人の意思に左右されない法定の居住権制度を創設することにしたのです。

配偶者短期居住権の発生障害事由(1)

  1. 配偶者が、相続開始のときにおいて、居住建物に係る配偶者居住権を取得したことが、配偶者短期居住権の発生障害事由とされています。これは、配偶者短期居住権の成立を認める必要性に乏しいからです。
     
  2. 配偶者短期居住権は、遺産の分割により、居住建物の帰属が確定した日、または相続開始のときから6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間しか存続しません。
     
  3. これに対して、配偶者短期居住権は、配偶者の終身の間を原則的存続期間とします。このため、配偶者の居住権を長期にわたって保護することはできます。
     
  4. また、配偶者短期居住権には、第三者対抗力が付与されないのに対して、配偶者居住権は登記をすることにより第三者対抗力が得られます。
     
  5. このように、配偶者の居住権を安定的に保護する点において、配偶者居住権は、配偶者短期居住権を上回るメリットがあります。
     
  6. したがって、配偶者が相続開始のときに、被相続人の建物を無償で居住のように供していた場合であっても、遺贈により配偶者居住権を取得したときには、配偶者短期居住権は成立しないものとされています。
     
  7. なお、同様の趣旨から、配偶者短期居住権が発生した後に、配偶者が配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は消滅したものとされています。

配偶者短期居住権の発生障害事由(2)

  1. 配偶者が、相続欠格事由に該当し、または廃除によってその相続権を失ったときは、配偶者短期居住権は発生しないものとされています。
     
  2. 典型的な欠格事由は、故意に被相続人を死亡するに至らせたために刑に処されたことです。また、廃除は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待をしたときなどに認められます。
     
  3. 被相続人の配偶者が、そのような事由に該当した場合には、他の共同相続人または居住建物の受遺者などに負担をかけてまで、その居住を保証することは相当ではありません。
     
  4. これが、欠格事由該当、廃除事由が、配偶者短期居住権の発生障害事由とされた理由です。

配偶者短期居住権の発生障害事由(3)

  1. 配偶者が、相続の放棄をすれば、配偶者短期居住権の発生障害事由から除外されています。すなわち、相続の放棄をした配偶者については、配偶者短期居住権の成立を認めています。
     
  2. それは、次の理由です。
     
  3. 配偶者短期居住権は、高齢化社会の進展にともなって配偶者の居住権保護の必要性が高まっていることや夫婦が相互に同居・協力・扶助義務を負っていることを根拠に、被相続人の財産処分を一定の範囲で制限するものであることを考慮すれば、配偶者が相続権を有することは必ずしも不可欠の条件ではありません。
     
  4. さらに、経済的事情から、相続放棄をした配偶者を保護する必要性があります。
     
  5. たとえば、多額の債務を負っている被相続人が、居住建物を含む遺産の大部分を第三者に遺贈したために配偶者がやむを得ず相続放棄をしたという場合には、被相続人の財産処分権を一定の範囲で制限して、配偶者の短期的な居住を保護する必要性が高いのです。

両者の共通点

配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同じく高齢化社会の進展を背景として、配偶者相続人の居住権の保護をはかるという制度趣旨に基づいています。そのため、両者の間には以下のような共通点があります。

無償性

配偶者短期居住権は、使用借権類似の法的債権として創設されたものですから、居住建物を無償で使用することができる権利とされています。

譲渡禁止

  1. 配偶者短期居住権は、配偶者の居住建物における居住を、短期的に保護するために創設された権利です。また、配偶者に経済的負担を課すことなく当然に成立するものです。
     
  2. よって、譲渡を認めて、投下資本の回収を保証する必要に乏しいものです。
     
  3. したがって、配偶者短期居住権は譲渡することができないものです。

対抗要件

  1. 使用貸借契約における修繕義務は、契約事由に原則委ねられています。一方、配偶者短期居住権は法定債権であることから、その効力についても、法律で規定する必要があります。
     
  2. その一環として、新法は、配偶者に居住建物の第一次的修繕権を付与しました。理由は、概ね次の4つです。
     
  3. 第一に配偶者短期居住権は、配偶者の居住を保護しようとするものであり、配偶者による即時の修繕を認める必然性が高いものです。
     
  4. 第二に配偶者に通常の必要費を負担させることとのバランスから、配偶者において第一次的に修繕方法を決められるようにするのが相当です。
     
  5. 第三に他の共同相続人が、第一次的な修繕権を有することとすると、紛争性のある事案では配偶者を退去させる口実に使われる恐れがあります。
     
  6. 第四に居住建物について、遺産分割が行われる場合には、配偶者自身も居住建物の共有持分を有しているのが通常であることから、共有物の保存行為に関する民法第252条但書きの趣旨に照らし、他の相続人および配偶者のいずれもが単独で修繕権を有することが相当です。

通常の必要費の負担

配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物を無償で使用することができることから、通常の必要費を負担しなければなりません。

配偶者の死亡または居住建物の滅失による権利の消滅

  1. 配偶者短期居住権は配偶者の居住を短期的に保護するために、配偶者固有の権利として創設された権利です。
     
  2. この制度趣旨から、配偶者短期居住権は帰属上の一身専属権とされており、配偶者の死亡によって消滅します。
     
  3. また、居住建物が滅失したときは、居住を保護する目的が実現不能となるため、配偶者短期居住権は消滅します。

配偶者の建物修繕権

  1. 配偶者短期居住権は、配偶者に第一次的修繕権を付与します。
     
  2. 配偶者居住権も同様に、配偶者に第一次的修繕権を付与します。

配偶者短期居住権と配偶者居住権の相違点

  1. 配偶者短期居住権の権利内容は、居住建物の使用権です。収益権がない点において、配偶者居住権と異なっています。
     
  2. 新法の配偶者短期居住権は、使用借権類似の法定債権です。
    配偶者短期居住権は、居住建物を無償で「使用」することができる権利であり、配偶者は収益権を有しないということが法文化されました。
    その理由は概ね以下の通りです。
     
  3. 第一に、配偶者短期居住権は、あくまでも配偶者の短期的な居住権を保護するために新設する権利です。このような目的に照らすと、配偶者にその収益権限や処分権限まで認める必要はありません。
     
  4. 第二に、配偶者短期居住権は、被相続人の生前には被相続人の占有補助者であった配偶者について、相続開始後に独自の占有権原を付与したうえで、相続開始前と同一態様の使用を認めることを目的とするものです。
    しかし、配偶者が、相続開始前に居住建物の一部について、収益権限を有していた場合には、相続開始前から被相続人との間に使用貸借契約等の契約関係が存在する場合が多いものと考えられます。そうであるとすれば、その部分については、相続開始後も、従前の契約関係が他の相続人との間で継続するものと考えられるから、配偶者短期居住権による保護の対象とする必要はありません。
     
  5. 第三に、被相続人自ら相続開始前に居住建物の一部について収益をしていた場合(たとえば自宅の上の階を賃貸アパートとしていた場合)については、その部分まで配偶者短期居住権の範囲とし、それによる収益を配偶者のみに帰属させるのは、配偶者短期居住権による保護の目的を超えるものです。

権利の性質

  1. 配偶者居住権は、使用借権類似の法定債権です。
     
  2. これに対し、配偶者居住権は、賃借権類似の法定債権です。

有償性

  1. 配偶者短期居住権は、配偶者に無償で居住建物を使用することを認める権利です。
     
  2. 配偶者居住権も同様に、配偶者に無償で居住建物を使用することを認める権利です。

成立要件

  1. 配偶者短期居住権は、相続開始のときに、被相続人所有の建物に無償で居住していたことが必要です。
     
  2. 配偶者居住権は、相続開始のときに、被相続人所有の建物に居住していた配偶者について、配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割(協議・調停・審判)または遺贈があったことが要件です。

対抗要件

  1. 配偶者短期居住権は、第三者対抗力は付与しません。
     
  2. 配偶者居住権は登記を対抗要件とします。
    配偶者に登記請求権を付与しています。

存続期間

  1. 配偶者短期居住権の存続期間は、次のとおりです。
    ① 居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合は、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日、または相続開始のときから6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日。
    ② 上記①以外の場合は、居住建物取得者が、配偶者短期居住権の消滅の申し入れの日から6ヶ月を経過する日。
     
  2. 配偶者居住権の存続期間は、原則は配偶者終身の間です。
    例外として、遺産分割などで別段の定めをしたときは、その定めるところによります。

場所的成立範囲

  1. 配偶者短期居住権は、次のとおりです。
    居住建物の全部を無償で使用していた場合は、全部について成立します。
    居住建物の一部のみを無償で使用していた場合は、その部分に限って成立します。
     
  2. 配偶者居住権は、居住建物の全部について成立します。

配偶者の建物修繕権

  1. 配偶者短期居住権は、配偶者に第一次的修繕権を付与します。
     
  2. 配偶者居住権も同様に、配偶者に第一次的修繕権を付与します。

必要費の負担

  1. 配偶者短期居住権は、次のとおりです。
    ① 配偶者は、通常の必要費を負担します。
    ② 配偶者が、通常費以外の必要費を支出したときは、各相続人は民法第196条の規定にしたがい、その法定相続分に応じてその償還をしなければなりません。
     
  2. 配偶者居住権は、すべて配偶者が負担します。

有益費の負担

  1. 配偶者短期居住権は、次のとおりです
    ① 各相続人が負担します。
    ② 配偶者が支出したときは、各相続人は、民法第196条の規定に従い、その法定相続分に応じてその償還をしなければなりません。
  2. 配偶者居住権は、次のとおりです。
    ① 建物所有者が負担します。
    ② 配偶者が支出した場合には、長期居住権が消滅したときに、民法第196条の規定にしたがってその償還を求めることができます。

譲渡・転貸

  1. 配偶者短期居住権は、次のとおりです。
    ① 配偶者短期居住権を第三者に譲り渡し、または居住建物を第三者に使用・収益させることはできません。
    ② 配偶者が第三者に居住建物の使用・収益をさせたときは、他の相続人は単独で短期居住権の消滅を請求することができます。
     
  2. 配偶者居住権は、次のとおりです。
    ① 配偶者居住権を第三者に譲り渡し、または建物を第三者に使用・収益させることはできません。
    ② 無断で建物を第三者に使用・収益させたときは、建物所有者による消滅請求の事由となります。

存続期間満了以外の権利の消滅事由

  1. 配偶者短期居住権は、次のとおりです。
    ① 配偶者以外の相続人が、短期居住権の消滅請求権を行使したこと。
    ② 配偶者が死亡したこと。
    ③ 建物が滅失したこと。
     
  2. 配偶者居住権は、次のとおりです。
    ① 建物の所有者が、長期居住権の消滅請求権を行使したこと。
    ② 配偶者が死亡したこと。
    ③ 建物が滅失したこと。

使用貸借に関する第597条第三項(平成29年改正)の準用

配偶者短期居住権は、配偶者の死亡によってその効力を失います。

使用貸借に関する第600条(平成29年改正)の準用

  1. 配偶者居住権の、本旨に反する使用によって生じた損害の賠償および配偶者が支出した費用の償還は、居住建物取得者が、返還を受けたときから、一年以内に請求しなければなりません。
     
  2. 前項の損害賠償の請求権については、居住建物取得者が返還を受けたときから、一年を経過するまでの間は時効は完成しません。

賃貸借に関する第616条の2(平成29年改正)の準用

居住建物の全部が、滅失その他の事由によって使用することが出来なくなった場合には、配偶者短期居住権は、これによって消滅します。

配偶者居住権に関する新法第1032条第二項の準用

配偶者短期居住権は、譲渡することができません。

配偶者居住権に関する新法第1033条の準用

  1. 配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができます。
     
  2. 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物取得者は、その修繕をすることができます。
     
  3. 居住建物が、修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者自らその修繕をするときを除く)、または居住建物について、権利を主張する者があるときは、配偶者は居住建物取得者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません。ただし、居住建物取得者が、すでにこれを知っているときは、この限りではありません。

配偶者居住権に関する新法第1034条の準用

  1. 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します。
     
  2. 配偶者が、居住建物について、前項の必要費以外の費用を支出したときは、居住建物取得者は、第196条の規定に従い、その償還をしなければなりません。ただし、有益費については、裁判所は居住建物取得者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます。

配偶者短期居住権に関する事例1

Aは遺言を残さずに死亡しました。
相続財産は、自宅の土地・建物および銀行預金です。
Aは相続開始時、自宅で配偶者Bと居住していました。子は、すでに独立しています。

  1. 結論的に、Bは、相続開始時から、遺産分割協議が成立するまでの間は、配偶者短期居住権を有し、それ以後は、建物の所有者として居住の権利を有します。
     
  2. 新法第1037条第一項によれば、配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始のときに無償で居住していた場合に、その居住建物取得者に対し、配偶者短期居住権を取得します。
     
  3. その存続期間は、居住建物について、配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合は、遺産の分割により、居住建物の帰属が確定した日、または相続開始のときから6ヶ月を経過する日の、いずれか遅い日までです。
     
  4. 本事例では、被相続人A所要の自宅に、Aと配偶者Bが居住していたのであるから、配偶者短期居住権の成立要件が満たされていると解されます。
     
  5. 自宅の土地・建物は、Bが単独で相続する旨の遺産分割協議が成立しているので、それ以後、Bは建物の所有者として居住の権利を有することとなります。

配偶者短期居住権に関する事例2

事例1において、相続開始時から、遺産分割協議が成立するまでの間に、Bの体調が悪化し、姪のCが介護のために同居することとなりました。

この場合、Bの短期居住権になんらかの影響が及ぶでしょうか。なお、Cが同居することについて、ABの子の承諾は得られていないものとします。

  1. Cの同居は、Bの短期居住権に影響を及ぼしません。
     
  2. 新法第1038条第二項によれば、配偶者は、居住建物の取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができないものとされています。
     
  3. そして、配偶者がこの規定に違反したときは、居住建物取得者は、配偶者に対する意思表示によって、配偶者短期居住権を消滅させることができるものとされています(新法第1038条第三項)。
     
  4. ここでの「第三者」は、配偶者以外の者であって、独立の占有主体の地位を有する者をいいます。占有補助者は含まれません。
     
  5. 配偶者を介護するために、同居する親族などは配偶者の占有補助者であって、独立の占有世帯の地位を有する「第三者」には該当しません。
     
  6. したがって、Cが、介護のために、ABの子の承諾なく同居することとなっても、配偶者Bは、新法第1038条第二項の自己使用義務に違反したことにはなりません。
     
  7. すなわち、ABの子は、Bに対して、配偶者短期居住権を、消滅させる旨の意思表示をすることはできません。
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