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公正証書遺言

越谷 司法書士のオリジナル解説

司法書士・行政書士による相続のオリジナル解説です。
公正証書遺言について、公正証書遺言作成、公正証書作成、公正証書遺言の要件、自筆証書遺言と公正証書遺言、公正証書遺言の判例に分けて解説しています。

遺言書の作成を検討していましたら、越谷の美馬克康司法書士・行政書士事務所へご相談ください。

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公正証書遺言の意義

  1. 公正証書遺言とは、原則として、遺言者本人の口授(口伝えで意思を伝達する)に基づいて、公証人が作成する遺言です。
     

  2. 遺言者は、遺言内容を公証人に話す(口述する)だけで、実際の遺言書は公証人が書くのです。これを公正証書遺言といいます。

公正証書遺言の長所

  1. 公正証書遺言は、遺言の作成に公証人が関与するため、方式違反によって無効になることは、殆どありません。
     

  2. 遺言書の原本が、公証人役場に保管されます。そのため、遺言の存在および内容が明確となります。 
     

  3. さらに、遺言書の偽造・変造・滅失・損傷および紛失のおそれがありません。
     

  4. 公証人が作成しますから、遺言者が自書できない場合にも作成できます。
     

  5. 自筆証書遺言と異なり、家庭裁判所の検認手続も必要ありません。

公正証書遺言の短所

  1. 公証人役場に、原本が保管されるため、遺言の存在が明確であり、秘密にできません。
     

  2. 遺言の内容が、公証人および証人に知られます。
     

  3. 自筆証書遺言と異なり、手続が煩雑です。
     

  4. 公証人が作成するため、費用がかかります。

作成場所

  1. 通常の公正証書は、原則として、公証人役場で作成しなければなりません。
     

  2. しかし、公正証書による遺言書(公正証書遺言)の作成は、公証人が出張することによって、遺言者の自宅や入院している病院で、作成することができます。 

公正証書・公証人の意義・公正証書作成のお勧め

  1. 公正証書とは、公証人が、公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書です。
     

  2. 公証人は、公証人法に基づき、法務大臣が任命する公務員です。公証人は、元判事・検事など、法律の専門家です。
     

  3. 公証人の執務する場所を、公証役場あるいは公証人役場といい、全国に約300ヶ所あります。

  4. 公正証書は、下記にご説明の通り、多くの長所があります。公正証書作成をお勧めいたします。

公正証書の種類

  1. 公正証書には、遺言公正証書、離婚給付公正証書(離婚に伴う慰謝料・養育費の支払いなど)、金銭の貸借に関しての公正証書、土地・建物の賃貸借に関する公正証書など、があります。
     

  2. なお、任意後見契約・事業用借地権契約は、公正証書にしなければ無効です。すなわち、当事者間で契約書を作成しても、効力がないのです。

公正証書の短所

  1. 公正証書の短所としては、有料となることです。公証人に支払う手数料、公正証書謄本作成の用紙代など、が必要です。
     

  2. また、原則として、公証役場へ出頭しなければなりません。しかし、公証人に出張していただくことは、可能です。出張の場合は、出張費・交通費が加算されます。

公正証書の長所

  1. 公正証書が、有料にもかかわらず、多く利用されているのは、長所が多いからです。すなわち、短所を補っても、なお余りある素晴らしい長所があります。
     
  2. その長所としては、次のものがあります。
    (1) 証拠としての高い証明力
    (2) 裁判所の確定判決と同様の、強制執行力
    (3) 高い信頼性と安全性
    (4) 債務者に対しての強い心理的圧力
     
  3. 以下、公正証書の長所を、個別に検討します。

証拠としての高い証明力

  1. 裁判で、公正証書が証拠として持ち出された場合、裁判官は直ちにこれを、証拠として採用できます。そして、証拠として採用された公正証書は、高い証明力があります。
     
  2. すなわち、金銭消費貸借契約を、公正証書で作成しておけば、法廷で、借りた覚えはないとか、偽造されたものだ、などの主張はできないのです。
     
  3. これは、公正証書作成の確実性、内容の適法性・有効性が、公証人によって、確保されているからです
     
  4. すなわち、公正証書の作成は、次のような厳格な要件が必要です。
    (1) 公正証書作成依頼者は、身分を証明するものを、公証人に提出します。印鑑証明書と実印または、運転免許証などです。
    (2) 公証人は、当事者の身分を確認してからでなければ、公正証書を作成しません。
    (3) 当事者は、公証人の面前で、公正証書の内容を確認します。その後に、当事者は、署名・押印をします。
     
  5. 内容の適法性・有効性は、次のように確保されています。
    (1) 公証人は、公正証書にする内容が、法令に違反したり、契約などに無効や取消しの原因があるときは、公正証書を作成することができません。このような原因として、詐欺・強迫・虚偽表示などが、考えられます。
    (2) 公正証書作成の際、当事者が、公証人に虚偽の事実の依頼をして、真実でない公正証書を作成させた場合は、刑事罰(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)に処せられます。
     
  6. 一般私文書の場合は、その文書が、正しく作成されたことの証明が必要です。これによって、証拠能力が認められても、必ずしも証明力が、強いとはいえません。
    公正証書とは、大きな違いがあります。

裁判所の確定判決と同様の強制執行力

  1. 強制執行力とは、裁判所の関与のもとに、給料や預金等の差押えができることです。
    これによって、債権の回収を図るのです。
     
  2. 通常取引で、債務者の債務不履行の場合に、債権者が債権の回収を図るには、債権者は裁判を起こし、勝訴判決で、強制執行が認められる判決の確定を要します。しかし、これには時間がかかり、多額の費用が必要です。
     
  3. 公正証書を作成し、「強制執行をされてもかまわない」旨の「執行認諾約款」の記載があると、裁判は不要です。
    このような公正証書は、裁判所の確定判決と同じ執行力を持つのです。
     
  4. もっとも、債権者が直接に、債務者に対して強制執行ができるのではありません。
    強制執行の手続きは、法律にしたがって、裁判所または執行官に申立てをします。
     
  5. 目的財産が、土地や建物の不動産とか、預貯金等の債権なら、裁判所に申立てます。
    動産なら、執行官に申立てることになります。

高い信頼性と安全性

  1. 公正証書は、公証人により、作成段階で当事者の身分を、確認されます。
    すなわち、印鑑証明書と実印、運転免許証などで、本人確認がされるのです。
     
  2. 公証人は、公正証書にする内容が、法令に違反したり、無効・取消し原因に該当する場合は、公正証書を作成しません。
     
  3. このような作成手続きを踏みますから、高い信頼性があり、内容面も安全性があるのです。
     
  4. 公正証書の原本は、公証役場で厳重に保管されます(原則20年間)。公正証書の原本の、盗難・紛失・偽造・変造は、まず起こりえません。
    この意味でも、高い信頼性と安全性が確保されているのです。

債務者に対しての強い心理的圧力

  1. 公正証書に、「強制執行に服する」旨の、「執行認諾約款」の記載があれば、債務不履行の場合に、直ちに強制執行が可能です。債務者とすれば、債務の履行を怠らないようにと、かなりの心理的圧力となります。
     
  2. 公正証書は、証拠として高い証明力があります。債務者は、裁判で公正証書に関して争うことは、至難の業です。このことを、債務者が自覚していれば、契約通りの履行をしようと、心理的圧力を与えます。

公正証書遺言には、自筆証書遺言と異なった要件があります。
証人の立会い、遺言者の口授などです。個別に、検討します。

証人の立会いの必要

  1. 公正証書遺言を作成する場合、証人2人以上の立会いが必要です。
     

  2. 証人の立会いが無い場合、作成された公正証書遺言は、無効となります。 

証人立会いの理由

  1. 証人の立会いを要求されるのは、次のような理由です。
     

  2. 第一に、証人は、遺言者の同一性・精神状態が確かなことを、証明します。
     

  3. 第二に、証人は、遺言内容が、遺言者の意思から出たもので、真実に成立したことを、
    証明します。

     

  4. 第三に、 証人は、公証人の職権乱用を防止する任務を有します。

証人の義務

  1. 証人は、途中で退席することは、できません。最初から最後まで、同席する必要があります。
     

  2. 証人は、公証人が筆記した遺言書が、遺言者の口述内容通り正確に書かれていることを
    確認します。

     

  3. そして、最後に、遺言書に署名、押印しなければなりません。

証人欠格者

  1. 証人は、誰でもなれるわけではありません。次の者は、証人となることができません。
     
  2. 第一に、未成年者です。
     
  3. 第二に、推定相続人、受遺者、それらの配偶者と直系血族が、証人欠格者です。
     
  4. 第三に、公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人も、欠格者です。

遺言者の口授

  1. 遺言者が、遺言の趣旨を、公証人口授することが必要です。
     

  2. 遺言者は、公証人口授することを要しますが、遺言の趣旨の口授でかまいません。

遺言者が口授できない場合

  1. 口がきけない者は、公証人口授できません。
     
  2. そこで、この場合遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を、「通訳人の通訳」により申術し、または「自書」することができます。
     
  3.  「通訳人の通訳」には、手話通訳だけでなく、触読、指点字などによる通訳方法を含みます。 
     
  4.  「自書」は、筆談によるということです。
     
  5. 公証人が、通訳人の通訳または遺言者の自書によって、公正証書遺言を作成したときは、その旨を公正証書遺言書に、付記しなければなりません。

口述筆記後の手続き

  1. 公証人は、遺言者の口述を筆記した後、これを、遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させなければなりません。
     

  2. これは、公証人が、筆記した内容の確認のため、必要とされるものです。
     

  3. 閲覧は、遺言者が耳が聞こえる場合でも、読み聞かせにかえることが出来ます。
     

  4. 耳が聞こえない者が、遺言者であったり証人である場合には、公証人は、筆記した内容を、通訳人の通訳により、遺言者または証人に伝えることができます。
     

  5. この場合は、その旨を公正証書遺言書に付記しなければなりません。

署名・押印

  1. 遺言者および証人が、公証人の筆記の正確なことを承認した後、公正証書遺言書に、
    署名・押印をしなければなりません。

     

  2. なお、遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます。
     

  3. 最後に、公証人が、敵式な手続にしたがって、作成したものである旨を付記して、署名・押印をいたします。

作成

  1. 自筆証書遺言の遺言者は、全文を自書する必要があります。
     

  2. 公正証書遺言の遺言者は、公証人の筆記内容が、自分の口述内容を正しく筆記している事を、承認する署名だけです。

遺言書の無効

  1. 自筆証書遺言は、方式不備で無効になることが多々あります。
     

  2. 公正証書遺言は、専門の公証人が直接筆記しますので、そのような事はないでしょう。

偽造・変造

  1. 自筆証書遺言は、偽造・変造・滅失・隠匿・未発見のおそれがあります。
     
  2. 公正証書遺言は、作成後は公証人が保管しますから、偽造・変造はなく、滅失・隠匿・未発見のおそれもありません。

秘密保持

  1. 自筆証書遺言は、秘密保持に適しています。遺言の存在をも秘密にできます。
     

  2. 公正証書遺言は、少なくとも、公証人および証人には、遺言の内容まで知られてしまいます。

費用

  1. 自筆証書遺言は、筆記用具や作成用紙も、特別なものは必要ありませんから、費用は殆どかかりません。
     

  2. 公正証書遺言は、公証人に支払う費用がかかります。なお、公正証書遺言の費用は、次の通りです。

公正証書遺言の費用

遺産の金額・内容 公証人手数料
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1000万円まで 17,000円
3000万円まで 23,000円
5000万円まで

29,000円

1億円まで 43,000円

以下、省略いたします。 
(なお、他に遺言手数料11,000円、用紙代3,000円程度が必要です)

検認手続き

  1. 自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きが必要です。
     

  2. 公正証書遺言は、検認手続きは不要です。

口述について

一 言語明瞭を欠いた遺言者 (大審院判例大正7年3月9日)

  1. 病気のため、言語明瞭を欠いた遺言者が、相続人の勧めで、遺言書を作成するため、公証役場へ出頭しました。
     
  2. 遺言者は、公証人の質問に対して、わずかに挙動をもって首肯し、または、首を左右に振る程度でした。
     
  3. この場合、遺言者は、口述したとはいえません。

 
二 公証人に聴き取りえない程度の応答 (大審院判例昭和13年9月28日) 

  1. 遺言者は、病気で小さい声でしか話せません。
     
  2. 公証人が、出張し遺言書を作成することにしました。
     
  3. 相続人ではないが、近親者が、証人として立ち合いました。
     
  4. 近親者は、遺言者に誘導的に質問をし、公証人に聴き取りえない程度の応答がありました。
     
  5. これを、近親者たちが、応答の意味だとして、公証人に伝達し説明しました。
     
  6. それを、公証人が、録取しましたが、口述とはいえません。
     

三 遺言者の原稿の作成 (大審院判例昭和9年7月10日) 

  1. 遺言者は、あらかじめ原稿を作成して、公証人に渡しました。
     
  2. それによって、公証人は、書面を作りました。
     
  3. その後、公証人は、遺言者に面接しました。その際、遺言者は、遺言の趣旨は、前に交付した書面の通りだと、口述しました。
     
  4. それで、公証人は、自ら作成した書面を、読み聞かせました。
     
  5. この場合、公正証書遺言は、有効といえます。

口述について

一 目録に従って記載と述べた場合 (大審院判例大正8年7月8日) 

  1. 遺言者が、遺贈物件の詳細な目録を用意し、公証役場へ出頭しました。
     
  2. そして、公証人に対して、どの物件は誰にと、口述しました。
     
  3. さらに、地番・面積などの細目は、目録にしたがって記載すべきことを、述べました。
     
  4. これは、口授に該当し、有効な公正証書遺言といえます。 

 
二 他人から聴き作成後、読み聞かせ (最高裁判所判例昭和43年12月20日)

  1. 遺言書作成にあたり、公証人が、あらかじめ他人から、遺言の趣旨を聴きました。
     
  2. 公証人は、これを筆記し、証書に作成しました。
     
  3. そして、その後に行なわれた、遺言者の口授を聴きました。
     
  4. 直後に、前の筆記を読み聞かせて、間違いないことを確かめました。
     
  5. この場合、口授は適正で、遺言は有効といえます。
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