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司法書士・行政書士による相続のオリジナル解説です。
仮払い制度について、「新家事事件手続法ただし書の解釈」を解説しています。

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新家事事件手続法第200条第三項ただし書

  1. 同条同項ただし書の「他の共同相続人の利益を害するとき」とは、どういう場合でしょうか。
     
  2. これは、原則として遺産の総額に法廷相続分を乗じた額の範囲を超える仮払いとなる場合が「他の共同相続人の利益を害するとき」にあたります。
     
  3. 具体的な事情により、その範囲を超える仮払いが許容される場合もあります。
     
  4. 逆に、その範囲内であっても「他の共同相続人の利益を害するとき」にあたる場合もあります。

具体的考察

  1. 預貯金の仮払いは、原則として、遺産の総額に法定相続分を乗じた額の範囲内で認めるべきです。相手方から特別受益の主張がある場合には、具体的相続分の範囲内で認めるべきです。
     
  2. 被相続人の債務の弁済を行う場合など、事務的な清算も含めることによって、相続人間の公平が担保されうる場合には、上記1の額を超えた仮払いが認められる場合もありえます。
     
  3. たとえば、相続人A・B・Cの3名(法定相続分は各1/3)で、積極財産が600万円の預金、弁済期が到来した相続債務が240万円であったとします。
     
  4. この場合、Aの積極財産における取り分は、200万円ですが、Aの申立てにより、預金のうち240万円を、Aに仮分割することも場合によっては許容されるもの思われます。
     
  5. 上記1の額の範囲内であっても、仮払いを認めることが相当でなく、当該預貯金債権の額に法廷相続分を乗じた額の範囲内に限定するのが相当な場合には、その部分に限定することもありえます。
     
  6. たとえば、預貯金債権の他には、一応の資産価値はあるが、市場流通性の低い財産が、大半を占めているため、他の共同相続人も、預貯金債権の取得を希望することが多いと思われるような場合です。

預貯金の仮払いと本分割

  1. 新家事事件手続法第200条第三項により行われた預貯金の仮払い(仮分割の仮処分)の内容は、その後に行われる遺産分割の調停または審判(本分割)においてどのように考慮されるでしょうか。
     
  2. 同手続法第200条第三項では、預貯金債権の仮分割の仮処分を申立てるにあたって、遺産分割の調停または、審判の本案が家庭裁判所に継続していること(本案係属要件)を要求しています。
     
  3. したがって、仮分割がされたのちに、本案の遺産分割(本分割)が行われることになります。
     
  4. この本分割については、原則として仮分割により申立人に預貯金の一部が給付されたとしても、本分割においてはそれを考慮すべきではなく、改めて仮分割された預貯金債権を含めて、遺産分割の調停または審判をすべきものと考えられます。
     
  5. なお、仮分割により特定の相続人が預貯金債権を取得し、その債権者(金融機関)から支払いを受けた場合、債務者との関係では、有効な弁済として扱われ、本分割において異なる判断がしめされたとしても、債務者が行った弁済の有効性が、事後的に問題となる余地はないものと考えられます。
     
  6. たとえば、相続人が、A・B・Cの3名(法定相続分は各1/3)で、相続財産が、預金200万円、甲不動産(200万円分)、乙不動産(200万円分)あったとします。この場合、Aの生活費の場合、上記預金債権200万円を仮払いするための仮分割をした場合であっても、本分割においては、上記預金債権も含めて改めて分割する旨の審判を、することになると思われます。
     
  7. すなわち、上記具体例の審判例は、次のようになると思われます。
    「被相続人の遺産を次のとおり分割する。
    1 Aに、預金債権(200万円)を取得させる。
    2 Bに、甲不動産を取得させる。
    ​3 Cに、乙不動産を取得させる。」

共同相続人の権利行使額の上限

  1. 新法第909条の2では「相続開始のときの預貯金債権額の三分の一に、当該共同相続人の法定相続分を乗じた額」「預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額」を限度としています。
     
  2. こうした限定を付した趣旨は、2つの理由があると思われます。
     
  3. 第一に、裁判所の個別的判断を得ないでも、定型的に預貯金の払い戻しの必要性が認められる額に限定すべきであると考えられること、です。
     
  4. 第二に、上限額を設けないと、具体的相続分を超過した支払いが行われた場合に、その超過額が大きくなって、他の共同相続人の利益を害する程度が大きくなり、本決定の趣旨を没却する恐れがあることにあります。
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2024年4月1日より、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年、また遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記をしなければなりません。義務に違反すると10万円以下の過料の対象となります。できるだけ早めに手続きをするのが推奨されます。

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