越谷の司法書士・行政書士事務所「美馬克康司法書士・行政書士事務所」

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(最高裁判所判決昭24年)

事案
  1. Xは、資産家の息子でした。 
    Xの父親は、造り酒屋で、江戸時代からの旧家です。
    Xの父親の、製造・販売する清酒は、超一級品です。
    そのため、県内外を問わずに、はばひろく愛飲家に支持されていました。
     

  2. Xは、姉が6人おり、やっと生まれた男子です。
    そのため、お坊ちゃんとして、だいじに育てられました。
     

  3. Xの父親は、政治力もあり、村役場の村長室にも 自由に出入りしています。
    村の、「影の村長」といわれ、誰も頭があがりません。
    あるとき、Xの父親にたてついた村会議員がいました。
    あくる日から、その村会議員は、村中の人々から村八分にあいました。
    「あのやろう、やせてるくせに、影の村長にたてつくとは、太い野郎だ」と、村八分です。
    お店では、何も売ってもらえず、誰も口をきいてくれません。
    子供も、学校でいじめられ、女房も、女連中にいじめられます。
    ついに、その村会議員一家は、夜逃げをしました。
     

  4. 小さい村だけに、Xの父親の権限は、それほど絶大だったのです。
    村の人々は、Xのことを、「造り酒屋さんとこの、X坊ちゃん」と呼びます。
    当時は、子供たちはお互いに、「田吾作」、「権兵衛」とか、名前をよびすてます。
    しかし、Xのことは、「Xさん」とか、「X坊ちゃん」と、よびます。
    悪がきが、たまに、「おい、X」と、よぼうものなら大変です。
    その日のうちに、悪がきの親はXの父親によびつけられ、こっぴどく怒られます。
     

  5. 当時、男の子たちの間では、「チャンバラごっこ」が、流行っていました。
    日本刀にみたてた、木や竹をふりまわし遊ぶのです。
    相手に切られた?者は、「やられたー」と、言って死んだふりをします。
    時代劇の映画全盛だけに、一応のかっこうをつけた遊びでした。
     

  6. Xの父親は、Xのために、「鞍馬天狗」の黒頭巾、着物、おもちゃの刀を買いました。
    これも、当時の映画の影響ですが、まさに「親ばかチャンりん」です。
    「チャンバラごっこ」をするときは、Xは黒頭巾、着物、そして刀をさして登場します。
    当然ながら、Xが主役です。
     

  7. XおよびXの指名する4~5人以外は、すべて悪人役となります。
    悪人役は、全員切られ役で、死にます?。
    おもしろくない子供は、たまにXに切りつけますが、Xは絶対死にません。
    「X坊ちゃん、切られたから死ななきゃ、あかんぞな」と、言ってもだめです。
    「おらは、鞍馬天狗だべ。絶対に死なんぞな」と、かってな反論です。
     

  8. ある日、Xの背後から、Xの頭を木の棒で切りつけた、男の子がいました。
    Xは、大泣きをし、父親に話しました。
    Xに切りつけた男の子の父親は、Xの父親に雇われていましたから大変です。
    男の子と両親が、いくら土下座をして謝っても許してくれません。
    さんざん怒られたあげく、男の子の父親は、解雇されました。
    まったく、無茶苦茶な話です。
     

  9. Xは、学校の成績は、中の下でした。
    また、同級生に、人望があるわけでもありません。
    しかし、どういうわけか毎年・毎学期、ずっと学級委員長です。
    Xの父親が、担任教員に、圧力をかけるのです。
     

  10. Xは、東京の大学に進学しました。
    貧しい村ですから、初めての大学生です。
    「東京の大学?すごかとね」と、村の英雄です。
    しかし、当時は一般の私立大学は、無試験というところが多数ありました。
     

  11. Xは、そんな大学の一つに入学したのです。
    山奥の村から出てきたXにとって、東京は刺激が強すぎたようです。
    大学に通うのではなく、毎日、繁華街をうろついたり、勉強など全くしません。
    そのうち、麻雀を覚え、悪友と雀荘に入りびたりです。
    どういうわけか、Xは麻雀の覚えもよく、メキメキと腕をあげました。
     

  12. 大学は、授業料を親が納めるだけで、全く出席しません。

    したがって、落第、落第で、5年たっても、1年生です。
    大学にとっては、大事な、「お客様」です。
     
  13. ある日、いつものように、麻雀に勝ちました。
    しかし、悪友の相手が、「金がない」と、言います。
    悪友の負け相手は、「これで、勘弁してくれないか」と、警察手帳を出しました。
    「実は、拾ったんだ。何かの役にたつよ」と、言います。
    Xが、その警察手帳を受け取り、貼られた写真をみると、Xによく似ています。
    Xは、興味を持って、「よーし、いいだろう。これでチャラだ」と、清算終了です。
     

  14. Xは、悪友相手の麻雀に連戦連勝でした。
    あまりに強いとの評判に、プロの雀士に目をつけられました。
    「麻雀では、誰にも負けない」と、天狗になっているXです。
    相手は、誰でもかまいません。
     

  15. しかし、プロの世界は、甘くありません。
    掛け金の高い麻雀で、プロが相手です。
    Xは、連戦連敗です。
    「勉強に必要だ」と、金持ちの父親からは、いくらでも送金されます。
    が、あまりにも悲惨です。毎日、大金を失うのです。
    それでも、麻雀を止めることができません。
     

  16. ある深夜、負けてトボトボと、寂しいわき道を、下宿に帰って行きました。
    すると、とある倉庫の前で、泥棒が盗品を持ち出そうとするのを、見つけました。
    リヤカーに、盗品を山盛りです。
     

  17. しばらく見ていたXは、良い考えが思いつきました。

    Xは、以前に、悪友から麻雀の負け金の代わりに、警察手帳をもらっていました。
    その警察手帳を、上着の内ポケットに入れていたのです。
    窃盗犯人は1人だし、小柄です。
    Xは、「おい、ちょっと待て」と、近づきました。
    Xは、例の警察手帳を見せながら、「警察の者だ。」と、言いました。
    驚いたのは、窃盗犯人です。
     
  18. Xは、「お前、泥棒だな。署まで来い。」と、威圧的です。
    犯人は、「だんな、勘弁してください。二度としませんから。」と、土下座です。
    Xは、「よし、今度だけは許してやる。だが、取調べの必要があるから、リヤカーごと
    差し出せ。 そうすれば勘弁してやる。」と、脅します。
    犯人は、「へい。ありがとうございます」と、急いでその場を立ち去りました。
     

  19. Xは、リヤカーを引いて、下宿まで帰り、盗品を自分の部屋に持ち込みました。

    これを見ていた者がいます。
    先ほどの、泥棒君です。
    泥棒君は、「どうも、おかしい」と、Xのあとをつけたのです。
    一晩中、泥棒君は、そこで見張っていました。
     
  20. 翌日、Xは、盗品の「錦糸」を、リヤカーに積み込み、知り合いの故買屋に運びました。
    上等の品だったので、かなり大金となりました。
    泥棒君は、Xのあとをつけ、Xの一部始終を見ていました。
    「泥棒の上前をはねるとは、なんという警官だ。にせものかもしれん。」
     

  21. 泥棒君のうったえで、Xは逮捕されました。
    Xは,恐喝罪で訴えられました。
    Xの父親は、X可愛さに、優秀な弁護士をつけました。
    Xの弁護士は、「窃取した物を、奪っても無罪だ」と、争いました。

最高裁判所の判決
  1. 窃盗犯人の持っていた「錦糸」は、盗品であることはあきらかです。
     

  2. したがって、窃盗犯人は、それについて正当な権利を有しないことは、明白です。
     

  3. しかし、正当な権利のない者の所持でも、所持として法律上の保護をうけます。
     

  4. たとえば、窃取した物を強奪すれば、処罰されます。
     

  5. 本件の、Xの行為は、盗品を所持する者に、脅しをかけています。
     

  6. そして、盗品を交付させたのです。
     

  7. したがって、Xは、恐喝罪となります。

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