総説
1 不法行為や債務不履行による損害賠償請求権は、財産上の権利として、相続さ
れます。
2 ただし、生命侵害の場合、財産的損害の賠償請求権、非財産的損害の慰謝料請
求権について、若干の問題があります。
3 それは、死者の権利主体性の、観点からの問題です。
4 さらに、慰謝料請求権の場合は、一身専属性の、観点からも問題があります。
この問題を、検討します。
財産的損害賠償請求権の相続
1 被相続人が、事故で即死した場合、その人は死亡によって権利主体でなくなります。
2 よって、その人が、生命を奪われたことによる損害 (生存していたら、得られたであ
ろう収入) 賠償請求権を、取得できないはずです。
3 そうすると、その相続ということも、ありえないはずです。
論理上は、このような帰結となります。
4 しかし、これは、負傷後の死亡に比較して、はなはだしく不公平です。
5 負傷後の死亡だと、負傷により被害者本人に発生した、財産的損害の賠償請求権
が本人の死亡により、相続人に承継されるからです。
6 身体侵害よりも重い生命侵害の場合に、損害賠償請求権が認められないとの不均
衡は、避けなければなりません。
7 判例は、この不均衡を避け、相続を認めています。
8 すなわち、即死の場合も、致死傷と死亡との間に、観念上時間的間隔があり、その
時に、被害者に、損害賠償請求権が発生します。
そして、被害者の死亡によって、その損害賠償請求権が相続される、としています。
9 この解決は、死者に権利主体性を認める点で、不整合さが残ります。
しかし、実務上は、定着しているようです。
慰謝料請求権の相続
1 慰謝料請求権については、一身専属性の問題があります。
2 当初判例は、被害者が、慰謝料請求の意思表示をすれば、それ以降通常の金銭
債権として相続され、被害者の一身に専属するものでない、としました。
3 慰謝料請求の意思表示は、意思の表白をもって足り、加害者に到達することを要し
ないと、されました。
4 また、その表白も、緩やかに解されていました。
5 たとえば、「残念、残念」とか、「向こうが悪い」と、いいつつ死んだ場合は、意思表示
があり、とされました。
6 さらに、「お母さん、痛いよ」も、意思表示とされました。
しかし、「助けてくれ」は、それに当たらないと解されました。
7 これは、意思表示ができないほどの重傷とか、即死の場合は、被害者に不利です。
8 最高裁判所は、慰謝料請求権は、当然に相続されるとしました。
慰謝料請求権は、被害法益が被害者の一身に専属するのみで、単純な金銭債権
として、意思表示の有無を問わず、当然に相続されると、解したのです。
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